集まって話を聞く場所として使われるホームベース | 一般学習エリアの様子 |
クラスルームの奥にあるベース空間 ※ 1 |
複数のクラスでシェアするオープンスペース※ 1 |
Infant ゾーンのクラスルームに用意されたベース空間 ※ 2 | 様々な教材が整理収納された壁 ※ 2 |
Junior ゾーンのクラスルーム前のロッカースペース ※ 2 | |
※ 1 Stakes Hill Infant School ※ 2 Whiteley Primary School |
オープンスペースの一角に用意されたデン
三春町立岩江小学校 |
学級教室毎に用意されたパオ(デン)
川崎市立はるひ野小学校 |
個別やグループでの活動を中心とするイギリスの学校と、クラス集団を重視する日本では教室の設えや用意される家具は大きく異なる。イギリスでは板書面はメモ書き程度の大きさで、壁は掲示面が中心で、教材・資料棚が設けられ、机は二人用が多い。また児童の荷物置き場は教室とは別に用意され学習の場としての性格を明確にしている。近年はICT 環境整備に力を入れており、ビデオプロジェクターとインタラクティブボードを全教室に取り付ける例も見られる。
一方、我が国の教室は説明するまでもなく、一斉指導に適した場として黒板面が重視され、後部にロッカーが造り付けられているのが一般的である。いわば前面はフォーマル、後部は生活的でやや雑然としているというのが、我が国の教室風景とも言える。
教育の場としての整え方、特に収納の確保の仕方は今後の教室計画の大きな課題と言える。
中学校の教室まわり-ハウス制
次に中学校についてみてみよう。
イギリスでは11 歳から16 歳までの5年間が義務教育上の中等教育期間となる。ロアー2 年、アッパー3 年の上に、大学進学予備学年とも言えるシックスス・フォーム(Sixth Form)が2 年間置かれる。
学年が上がるほど教科の専門性が増すため、授業ごとに教科専用の教室へ移動する教科教室型運営方式をとる。生徒の荷物は教室とは別のロッカースペースに置かれる。
学習集団が授業ごとに異なるため、帰属集団の考え方として、1960 ~ 1970年代にみられたのがハウスという生活単位の設定である。
60 人程の集団がそれぞれの進路に沿ったハウスに属する学校、学年ごとにホールを設けて帰属集団の場とする学校、ロアーとアッパーで棟を分け、それぞれオープンな空間の中に教科に対応した学習スペースをコーナーとして用意し、多様な教育活動に対応する学校などが見られた。
学年等に対応したハウスという150~ 200 人程の帰属集団に対して、ロッカースペースを兼ねる専用の場所を用意し、ハウスティーチャーが生活面のケアを図るという学校は近年も見られる。なお学習集団編成は授業ごとに異なり、生徒はハウスを拠点に各教科ゾーンへ移動して授業を受けることになる。
教科センター方式とホームベース
我が国の中学校は、特別教室型運営方式が大部分を占める。自律的な学習姿勢の育成、教科学習環境の充実等を目指して、教科教室型を採用する例が1980 年代から見られるようになった。
1991 に開校した福島県三春町立桜中学校における教育改革の試みが全国に評価され、教科教室型の有効性が注目を集めるようになった。
多様な学習形態に対応し、教科のメディアスペースとなるオープンスペースを教科教室と組み合わせ、教室ユニットとして「教科センター」を構成することから、教科センター方式という呼び方が定着するようになった。
ここでは生活面での配慮として、ホームベースについて述べる。
我が国の中学校では学習・生活両面で学級集団が重視される。教科教室型の計画では、教科教室を各クラスにホームルーム教室として割り当て、移動の中心的位置にロッカースペースを配置する計画が一般的であった。
これに対して、学校から学級専用の生活拠点が求められるようになった。それに応えた最初の計画例が沖縄県具志川市(現うるま市)立東中学校(1983)である。
ホームベイと名付けられたその空間は、3 階建校舎の1 階に学年単位で用意された食堂を可動ロッカーでクラス単位に仕切り、全員がテーブルに着席できるものである。
ホームルーム活動も食事もここで行う想定であり、学級に生活専用の空間を設けた点で画期的であった。
ただし、補助の関係でホームベース間を間仕切ることができず、音が筒抜けとなり、掲示面もないため、学級色がつくれないことで十分な評価を得られなかった。
その後、高校では教科教室型が採用された秋田県立秋田高等学校(1986)等でホームベースという学級の生活専用スペースが設けられた。また中学校では、岩手県岩泉町立釜津田中学校(1987)、長野県浪合村(現阿智村)立浪合中学校(1989)など単学級の小規模校で教科教室型が採用され、ホームベースが設けられた例が生まれた。
大きなテーブルを囲んで座る中1ホームベース 旧浪合村立浪合中学校 |
個人の机が用意された中3ホームベース 旧浪合村立浪合中学校 |
ホームベースを広める役割を果たしたのが、先にあげた三春町立桜中学校である。2 階建校舎の2階、そのクラスのホームルーム教室となる教科教室を見下ろす位置に、屋根裏部屋のような雰囲気のホームベースがある。
ここにはクラス全員が同時には着席できないという、熟慮した上での冒険的な提案であったが、完成後、生徒からも教師からも評価され、学級の心理的な拠点として認知されるようになった。
ホームベースは単にロッカーを置くスペースではない。
学級色を出せる掲示・展示ができ、テーブルやベンチがあり、顔を見ながら集まれ、教室とは異なる居心地の良い場所とすることが成功の秘訣となる。
右下にホームルーム教室を見下ろす屋根裏部屋のようなホームベース 三春町立桜中学校 | ホームルーム教室になる教科教室 三春町立桜中学校 |
次ページには学校規模や計画内容の異なる事例を示す。
ホームベースの考え方は、特別教室型の中学校にも生かすことができる。福島県矢吹町立矢吹中学校では普通教室にロッカースペースを隣接させ、教室は学習空間として整え、ロッカースペースはベンチ等を用意し授業の合間など気分転換が図れる場となっている。
教室まわり平面図(計画時) 矢吹町立矢吹中学校 |
生徒の手による学級掲示 豊富町立豊富中学校 |
おわりに
イギリスの小学校の、教室・教室まわりの機能を5つの構成要素として抽出し、再構成する考え方は、改めて教室の機能をとらえ直す上で参考になるであろう。
イギリスでは教室の姿そのものを変えさせたが、我が国の場合は教室の充実のための課題を示すものとして有効であろう。
さちに他の要素を付加していくことも考えられる。例えばメディアスペース(学習資料、掲示・展示)、教材保管、流しコーナー、教師コーナー、ロッカースペースなどを構成要素として加えることにより、教室まわりの充実を図ることができるだろう。特にクラスの人数が少ない小規模校の場合には工夫の余地は大きいはずである。
ホームベースからは、学級あるいは一人ひとりの生活拠点や心のよりどころとなる場、クラスのまとまりを生み出す場の条件について考えてみたい。
心を落ち着かせられる場、ホッとできる場、また特別支援教育の観点からはパニックになった子がクールダウンできる場など、教室まわりのゆとり空間、小スペースの生かし方、そして居場所を選べること。心と体の成長過程を踏まえながら、子どもの気持ちや行動を十分汲み取って計画に反映することが求められる。
建築計画学を確立した吉武泰水氏(東京大学名誉教授)は、その講演の中でイギリスの学校づくりについて、「実にねばり強くよく考えぬいている点で、学校建築のみならず新しい建築の進むべき方向を示している」と賞した上で、「われわれは、その外見にまどわされることなく、その根本の考え方を学ぶべきであろう」と述べている。
ホームベースの掲示物コンクール 豊富町立豊富中学校 |
季節ごとに模様替えする 大洗町立南中学校 |
自分の部屋のように飾る学級の展示 日立市立駒王中学校 |
思い思いに掲示する生徒ロッカー 福井市立至民中学校 |