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【Case Study】見附市立今町小学校改築基本計画 地域の力で、学校への「想いをかたちに」

教育環境研究所 研究誌02
Eye-span2012.May


新潟県見附市立今町小学校
教育環境研究所 長澤 悟Satoru Nagasawa

見附市は新潟県の重心に位置し、「新潟のへそ」を自称する。
面積が約78㎢と県内の市では最少で、人口は4 万2千人弱である。

市の西端を占める今町地区には天明年間以来350 年の歴史をもつ今町・中之島大凧合戦がある。
毎年6 月に開催されるが、刈谷田川の東岸と西岸に分かれて凧を揚げ、綱を絡め、切れた方が負け。
100 枚もの美濃紙を張り合わせ、長さ4m を超える六角凧200 枚が、勢い猛く大空を舞い、競う様に見る者は興奮する。

明治6 年創立という古い歴史を有する今町小学校に対する人々の想いはすこぶる熱い。
旧校舎の玄関には凧が飾られ、改築の話し合いではそれをどこに掲げるかが話題の一つだった。

今、新校舎のシンボルとなる吹き抜けの階段ホールに高く掲げられている。



見附市の教育-子育てするなら見附

見附市には小学校7 校、中学校4 校に特別支援学校が1 校ある。
教育委員会は「子育てするなら見附」と謳う市の政策のもと、「共創郷育」を合言葉に地域に開かれた学校づくりを推進してきた。

学校地域支援事業を活用して教育コーディネーターを置き、学習支援、図書室や屋外の環境整備、登下校の見守り等の活動等を行っている。
年々増え続け、平成22年度には市全体で延べ3,421 人に達した。

ほかにも保護者が学校の日常を取材しホームページで発信するエプロン特派員、新潟大学との連携による大学教授や学生の出前授業など、多岐にわたる活動を実施している。
支援者を含めた学校運営協議会は特別支援学校を含む全市立学校で展開されており、各校の取り組みは、毎年開催されるフォーラム「スクールアカウンタビリティin みつけ」で市民に報告される。
それは地域に開かれた学校づくりの質の向上を確かめ合う機会となっている。

市は学校づくりを人づくり、まちづくりに繋げてとらえ、今町小学校の改築も地域と共に進めることは必然だった。



学校づくりのスタート

昭和43 年建設の旧校舎は見附市内で最も古く、平成16 年10 月の中越大震災でも被害を受けた。

今町小学校の建て替えは今町の人々にとって大きな関心の的だった。
教育委員会は平成18 年9 月に学校、学校評議員、PTAの代表と今町のまちづくりや子育てを支えている人々を合わせ、計10 名の委員からなる「今町小学校改築検討会」を立ち上げ、アドバイザー役を筆者に依頼された。
久住時男市長とはNPO 地域交流センターが事務局を務める全国首長連携交流会で学校教育等について意見を交わしていた縁によるものである。

検討会の座長を今井崇校長(当時)が務め、日頃から連携のとれた学校と地域との関係を元に、3 回のワークショップを含め、率直、活発に意見が交わされた。
ワークショップは「子どもたちの学習の場としての学校」、「子どもたちの生活の場としての学校」、「地域住民の交流の場としての学校」をテーマとした。

さらに幅広く想いを集めるため、教職員、児童(5・6 年)、保護者、地域住民にアンケートを配布し、教育委員会のホームページから一般市民も回答できるようにした。
オンライン回答者66 名を含め、計313 名から回答が得られた。

講演会や先進校の視察を含め半年間に計10 回開かれた検討会・研修会を通して、改築の目標が20 の項目に集約された。
その成果は「想いをかたちに」というタイトルで、「新しい学校づくりに向けて-今町小学校改築構想づくりの記録」として、平成19 年3 月に筆者とサポート役の教育環境研究所の協力によりまとめられた。

項目ごとにワークショップやアンケートで得られた意見、先進事例の写真、今後の検討課題が示されている。
表紙にはLet’s make it come true! とあり、実現への意欲が表されている。


 20 の想いをキーワードとして示し、具体的な目標を言葉  で示した。  想いをかたちに 一部抜粋



設計者を加えた学校づくりの進行

19 年度に「想いを」共有し、「かたちに」に具現化するパートナーとなる設計者を選ぶために公募型設計プロポーザルが実施された。

県内及び首都圏を中心に40 超の応募があり、一次審査を通過した5 者に対するヒヤリングは市民公開の場で行われた。
審査の結果、学習・生活の場の工夫、環境配慮、長寿命化など、建物としての基本性能を重視した提案内容と設計の進め方への信頼感などから、大宇根建築設計事務所が選ばれた。

平成19 年10 月より基本設計が始まった。
教育委員会、学校(校長・教頭・教務主任)、設計者、筆者が一堂に会する基本設計打合せ会議が約6 ケ月の間に計8 回もたれた。

教育環境研究所もこれに加わり、時に設計者、時に学校の立場に立って検討課題の提示や解決策の提案を行った。
会議には、神林晃正教育長も毎回出席し、育てたい子ども、進めたい教育など、学校づくりにかける市としての想いが伝えられた。

ネーブルホールを中心軸とした配置敷地の形状、道路との関係、既存建物を使いながらの建設等の条件のもと、グラウンドの面積・形状を確保し、校門、昇降口、運動場を結ぶ児童の動きが自然で、災害時には避難者の集中や円滑な救援活動に対応できるようにするのはかなりの難問だった。

プロポーザル案の特長を生かしながら、学年のまとまり、教室から特別教室や体育館までの動線、学校の中心としての図書館の位置づけ、職員室から学校全体の様子が把握できるようにすることなどを課題として、建物の構成や配置が検討された。

その結果、昇降口を南棟の中央に置き、その先に吹き抜けの階段ホールを設けて学校の中心軸とし、各学年ユニット、特別教室、管理諸室、体育館の各ブロックが平行配置される明快な配置となった。

完成後にネーブルホールと名付けられた3 層吹き抜けの大階段は、全校児童が集い交流を生み出すシンボル空間となり、図書館、校史室がその正面に位置する。

旧校舎の前には保護者の手で作られた可愛らしい飼育小屋と観察池があった。
残すことは適わなかったが、当時の人々の想いを継承するためにアプローチの南側に緑の空間を設け、新たに飼育小屋と観察池を復活した。


 新しい今町小学校のシンボルとなる大階段「ネーブルホール」はみんな  の交流の場 地域の歴史・文化を表す大凧





教室まわりの工夫

各学年ユニットは中庭を挟んでオープンスペースが面している。

北棟の教室は北向きとなるが、カーテンを閉める必要がなく、明るさや通風が確保できてよいと評価されている。

教室やオープンスペースは、低学年は生活科や作業活動等のワークスペース、中高学年は多様な学習形態に対応するラーニングセンターと性格を変えている。
低学年には木でくるまれた小空間のデン、教室に流しコーナーを設けている。

各学年とも1 教室はオープンスペースとの間に可動間仕切を設け、音を出す活動等に多目的に利用できるようにし、将来的には2クラス編成となる見込みのため、2 教室間の間仕切は可動としている。

児童の持物や教材教具の収納のため、可動の鞄棚、黒板横の教材棚のほか、黒板下にも戸棚を用意した。
また学年ごとに小教室を兼ねる教材庫を用意している。

特別支援学級は中庭に面した1 階に配置し、オープンスペースに4つの小教室が房状に付く構成としている。
体育館への動線上に面しているため、普通学級の児童が気軽に立ち寄り、一緒に遊具で遊ぶ様子が見られる。

その上の階は中庭に張り出す形の円形ギャラリーであり、学年間の交流の場になるとともに、東側道路に対して学校の顔を作っている。


オープンスペースが南に面する北棟の学年ユニット


学年スペース前の掲示+収納空間


 黒板下を有効活用した収納スペース 

 地域の談話室ともなるネーブルホールの隣に設けられた和室



エコのまちのエコスクールづくり

市長は環境対策を最重要施策の一つとする方針を打ち出し、既に市内全小中学校に太陽光発電が導入されている。
今町小学校ではエコスクールモデル校として環境配慮の工夫と効果を理解できる施設づくりが設計者の手で進められた。

快適な環境の実現と省エネルギー両立の基本は日照調整、自然通風、高断熱性である。
主要室の窓は複層ガラスとし、外壁・屋上・床下は外断熱工法が採用された。
いたみやすい校舎の足元まわりは断熱材をレンガで包み、校舎の長寿命化を図っている。

自然エネルギーの活用については太陽光発電設備(5.7kW) が設置され、理科実験室に専用のコンセントを設けている。
一方、地中熱利用として深さ約2m に埋設した長さ約300m のクール& ヒートチューブにより、昇降口、ネーブルホールに床下から給気( 冬期間は外気調和機により加温し簡易床暖房)している。

上部にはトップライトとソーラーチムニーを設置し、冬期は暖気をファンにより対流させる。
これらにより集会や校内移動の際の快適な環境を実現している。

また、66トンの雨水貯留槽を設け、トイレの洗浄水やグラウンド散水に利用している。
度重なる震災や水害の経験を踏まえ、災害時の有効利用が考慮されている。

教室や廊下の壁、建具、造作家具に県産木材(越後杉)が活用され、特にネーブルホールは全面越後杉で仕上げられ、木のぬくもりを伝えている。

1 年を通した新校舎での生活を通して、地中熱や雨水利用の効果が実感されている。

昇降口に設置された太陽光発電、雨水利用、地中熱利用の効果を総合的にリアルタイムで表示するディスプレイも理解を深めるのに役立っているようだ。

緑のカーテンの取り組み、児童会環境委員会による啓発運動等、児童の環境活動はすでに始まっている。


 外壁のレンガ積みと外断熱工法 昇降口に用意されたエコ設備の情報掲示パネル



「チーム今町」による環境づくり

1 期工事が完成した段階で、教室棟のベランダから子どもたちや集まった人々にお祝いの餅まきが行われた。

昇降口前のレンガタイルの床には、名前を書いた小石を子どもたちの手で埋め込んでいる。
自分たちの要求を生かし、作ることに参加した思い出が長く記憶にとどまり、やがて大人になった時には学校を支える役割を果たしてくれることだろう。

学校では「チーム今町」を合言葉とし、心地よい環境づくりを目指して、掲示による校内環境の充実を図っている。

PTA や教育コーディネーター等の学校支援者が、秋祭りで学習発表会を盛り上げるなど学校の活動を支えている。
積極的に関わることで幼保も含めた保護者同士の子育て支援の機運も高まっているという。

文字通り地域が学校を支えている今町小学校。新しい施設環境のもと、その活動をより広げ、関係が一層強まっていくことが期待される。


 新校舎の完成を祝い、地域の人々が餅まきを行った  一人ひとりが名前を書いた石を埋めた



 
概要
計画経過      H20年07月 実施設計
                    H20年09月~H21年11月 校舎施工
                    H22年06月~H23年03月 体育館施工
                    H23年06月~11月 グラウンド
設計監理      大宇根建築設計事務所
計画指導      長澤悟+教育環境研究所
建物構造      鉄筋コンクリート造、一部 鉄骨鉄筋
                    コンクリート造、鉄骨造/地上3階
計画規模     18+4クラス
敷地面積     23,945.45㎡
建築面積     4,290.81㎡
延床面積     8,027.56㎡
                    (屋外車庫、器具庫を除く)
所在地         新潟県見附市今町6丁目19-1